東京の中でも町を含めてどの駅が好きかといえば、個人的には1位上野駅2位御茶ノ水駅3位四ッ谷駅というところだろうか。

3位の四ッ谷は、中央線ではなく丸ノ内線がいい。都心の駅だが、丸ノ内線のここにはトンネルとトンネルのあいだに挟まれたひとときの地上の安堵がある。陰から陽へと移り変わる光を感じることができる。車窓の両側から渓谷の存在を感じる。駅ホームの春にはきっと桜が咲き、夏には緑が濃いだろう。

高校時代には駿台予備校がこの地にあって足繁く通った。悪友3人組と何をするわけでもなく、真夏の丸ノ内線の四ッ谷駅前でたわいもなく何時間でも過ごしたことが自然と思い出される。迎賓館やホテルニューオータニの特徴ある建造物も近くに臨めた。僕は10代半ばからこの土地の持つ固有性、genius loci に魅力を感じていたのかもしれない。駅前を一歩進むと新宿方向にはどこにでもあるビル群と昔ながらの下町、いっぽうで西には伸びやかな緑の閑静な風景が今でも広がる。

足が遠のいて久しいが、昨日の日曜日、たまたま丸ノ内線の四ッ谷駅を通り過ぎてやっぱりここはいいなと思った。30年くらいで魅力は色褪せないのかもしれない。この駅のホームの景観には都会の華やかさとともに閑けさがある。自分の深層をどこか柔らかく撫でるものがある。

例えば用事もないのに新宿や渋谷や池袋駅に降り立つと、自分の身体はたちまち喧騒に踊らされ、浮遊し、記号化する感じだが、丸ノ内線の四ッ谷駅はそうではない。知らず知らずのうちに日常に巻き込まれている自分との間合いが取れて、いい感じに自分が「整う」、そんな駅である。

全国いろいろな駅を知っているつもりだが、このような駅は日本広しといえどもなかなかないのではないか。風景がシングルトーンではなく輻輳し合っていて、なんだか心地いいのだ。