(②の続き)
東ロボくんの話になりますが、マーク式の模試で、得点のいいのは理科と社会と数学(ただし、記述式だとダメだそうです。)ですが、苦手なのが国語と英語だそうです。やはり、といいますか、AIでは言語理解処理に関して質的な限界がありそうです。
結局、文の意味が人間と同じように理解できないので、たとえば国語の内容把握問題では傍線が引いてある箇所と文を比較参照して、ある語句の出てくる頻度が一番高いものを正解で選ぶとか、そのような統計的な処理で問題を解かざるを得ません。
また、英語はもっと難しいようで、再び例を挙げましょう。東ロボくんに150億の例文を暗記させたようですが(150億!)、以下のような問題が苦手なようです。

次の会話の空欄に入れるのに最も適当なものを、それぞれ①~④のうちから1つ選べ。

Nate: We’re almost at the bookstore. We just have to walk for another few minutes.
Sunil: Wait. ( )
Nate: Oh, thank you. That always happens.
Sunil: Didn’t you tie your shoe just five minutes ago?
Nate: Yes, I did. But I’ll tie it more carefully this time.

① We walked for a long time.
② We’re almost here.
③ Your shoes look expensive.
④ Your shoelace is untied.

(訳)
ネイト:もうすぐ本屋だよ。あと2、3分かな。
スニール:ちょっと待って。(      )
ネイト:サンキュー。よくあるんだよね。
スニール:5分前に結んでなかったっけ?
ネイト:そうだね。今度はしっかり結んでおくよ。

①ずいぶん歩いたね。
②もうすぐだね。
③いい靴だね。
④靴の紐ほどけてるよ。

正解は④の「靴の紐ほどけてるよ。」ですが、東ロボくんは②を選んでしまったそうなのです。
要は単語や文をいくら大量に暗記しても、”That always happens. (よくあるんだよね。)”の、”That”の指示代名詞の内容が理解できていないので、解けないのでしょう。著者がAIが文の意味を理解できないと言う、その典型的な例だと思います。
何を武器に東ロボくんが問題を解こうとするかといえば、論理・統計・確率です。

著者は東ロボくんとそれ以外のAIについてもその限界について述べています。少し長くなりますが引用しましょう。

AIはいくらそれが複雑になって、現状より遙かに優れたディープラーニングによるソフトウェアが搭載されても、所詮、コンピューターに過ぎません。コンピューターは計算機ですから、できることは計算だけです。計算するということは、認識や事象を数式に置き換えるということです。
つまり、「真の意味でのAI」が人間と同等の知能を得るには、私たちの脳が、意識無意識を問わず認識していることをすべて計算可能な数式に置き換えることができる、ということを意味します。しかし、今のところ、数学で数式に置き換えることができるのは、論理的に言えること、統計的に言えること、確率的に言えることの3つだけです。そして、私たちの認識を、すべて論理、統計、確率に還元することはできません。

(本著p.164)

ここに、AIの専門家である著者による、AI自体の限界が端的に示されていると思います。いまのAIのみならず、この先、進化するであろうスパコンや量子コンピューターであっても、技術開発のアプローチが数的処理の効率化ということであるかぎり、人間だけが果たしうる能力や領域は担保されるはずなのです。
「あぁ、よかった。」私はかなり安堵したのですが皆さんはいかがでしょうか。

しかし、人間の能力がすべてAIに代替されることはないにしても、もしもAIが苦手な領域について当の人間が苦手だとすると、この先の社会はどうなるのでしょうか。論理的にいえば人間はAIに取って代わられても大差がないということになります。
著者はこの本の第3・4章で、とくに今の日本の子ども・青年たちを対象としたテストで読解力が低下していることに警鐘を鳴らしています。数学の専門家ですが、国語力のなさに危機感を感じているのです。(以前と比べて低下しているという、同一テストによる過去との比較は行っていないようですが。)

著者はかなり多くのサンプルをもとに読解力の低下について論じているのですが、私も3・4章を読んでみてかなり寒気を覚えました。別の機会があればまたそこで取り上げて考察してみたいと思います。みなさん、この夏にでも是非この本を手に取って読んでみると、AIのほうではなく、ひるがえってわたしたち人間についていろいろ考えさせられるのではないかと個人的に思います。塾に置いてありますのでよければご一読くださいね。